「ルーティンを守るよりも”楽しい”を優先していい」パーカッショニスト ラファエル・モイセ・エレディアさんロングインタビュー#2
前回に引き続き、パーカッショニスト ラファエル・モイセ・エレディアさんのロングインタビューをお届けします。
前回の記事(#1)はこちら↓
「小さい頃から、音楽を仕事にする人生なんだろうなって思ってました。」パーカッショニスト ラファエル・モイセ・エレディアさんロングインタビュー#1
目次
パーカッショニスト ラファエル・モイセ・エレディア(Rafael Moises Heredia、堀本求生)さんとは?
15歳よりパーカッショニストとしての活動を初め、18歳でスペインに拠点を移して以来 エバジェルバブエナ、マリナエレディア、ファルキート、ディエゴデルモラオ、など様々な有名アーティストと共演。
又、今年からはバークレー音楽大学に特待生として入学予定。
▼ラファエル・モイセ・エレディア(堀本求生)Instagram
https://www.instagram.com/horimotosa_n/
模索しながら自分の基礎を積み上げていく
ーーパーカッションの基礎練習はどうやって学んでいきましたか?
最初はYouTubeを見てやり始めました。
「これをやろう」っていうのを2、3個だけ決めて、時間は10〜15分、そのときの気分でやっていました。
最初の2、3年は、見たものをひたすらやっていました。
今はちょっとずつ、これが苦手なんだな、これをやってみようって自分で考えて練習するようになりましたね。
ーーじゃあその最初の2、3年以降は、自分で得意なものや苦手なものが見えてきて、自分で練り上げていった?
特にパーカッションやドラムは、インディペンデンス(独立した動きをすること)、右手と左手・右足と左足で全部違うことをする、それがすごく大事です。
僕はそれが苦手だったんですけど、基礎練習が当時はあまりなかったんです。
それですごい人たちの演奏を聴くと、「急にここまでなるのかこの人たちは?!」って(笑)
頭の仕組みが違う人たちだと思ってたんですよ。
でも自分で考えて練習してみると、右手と左手がバラバラのように見えても、実は関連しているということが見えてきました。
ーー模索というか、「こういうことかな?」「こうなってるんだ!」という気づき、それは大事ですよね。いくら良い先生に言われたり、良いビデオや本があっても、自分でやっていかないと身につかない部分です。
僕の場合、自分でも笑っちゃうんですけど、舞台で一番自分がノっていて、ワーッてなったときほど、当時学んだことが出るんですよ。
「もっと良いやつあるでしょ!」って思うんですけど(笑)
でも、そのときに見つけたものとか「そうなんだ!」と思ったものとかが出ているから、興味深いですね。
ーーそれはおもしろいですね。インディペンデンスに注目して、ちょっと苦手なところを、「こうしたら、ああしたら」と考えていたときに見つけ出したパターンが出るってこと?
ソロでも出ますね。
例えば当時すごくハマってた演奏家がいたんですが、その人の演奏がすごく難しかったんですよ。
CDを半分のスピードで聴いても分からなかったんですけど、見よう見まねでやってみて、「よっしゃできた!」ということがありました。
メカニズムが分かるようになった今聴くと、全然違うんですけどね(笑)
当時は分からなくて。
でも舞台で、「あのソロ良かったよ!」って言われるのがそういうところだったりして。
後からビデオを見ても、「自分のものになってる」って感じです。
そういうの、ありますよね?フレージングとかで。
ーースピードを落としたりして何度も聴いたり、一番ハマって練習してたときに身についたりしたものが、やっぱり何気ないときに出ますよね。体に一番染み付いているんだね。
テクニック的には、今ならもっとすごいこと、違うことができるかもしれないのに、そこに行っちゃうっていう。すごく面白いですよね。
ルーティンを守るよりも「楽しい」が優先!
ーー練習の話がいっぱい出てきてすごく嬉しいです。
でも仕事で音楽をやっていると、次のステージでやることの仕込みみたいになってくることもあるじゃないですか。時間がある意味限られている中で、覚えなきゃいけないことがあったり頼まれたことがあったりして。移動や打ち合わせもあるしね。
その中での日々の練習とか、これだけは欠かさずやっているというルーティン、時間の使い方みたいなところをお聞きしたいです。
自分の音楽性とかテクニックを保持して高めていくために、工夫していることはありますか?
前はあったんですけど、今はあえてルーティンはしないことにしてるんですよ。
僕の場合、忙しいとき、時間がないときは、そういうことでストレスが溜まっちゃうので。
「この練習をしたい」っていうときにできなかったらそれがストレスになったり、逆にそれを練習しに行くと集中できてなかったり(笑)
時間のないときは、CDをかけて楽しく好きなようにやります。
気分にもよるので、今日基礎練習したいなっていうときもあるんですけどね。
「時間が少ない!」となると、今の仕事とは全く関係ないジャンルの音楽をかけながら叩くような、半分趣味・半分練習みたいなことをやるようにしてます。
ルーティンはあまりないです。
ーーそれは最近のこと?それとも仕事し始めてからずっとそんな感じ?
仕事をし始めてからですね。時間が無い中で、ルーティンも守ってやろうとするのは僕には合わないかなって。
楽しめてもいないし、焦っているだけのほうが多かったりするので。
「焦ってるな」と思うときほど、自分が一番好きなようにやります。
練習しながらストレス発散みたいなところもあって。
ーー大事ですね。やっぱり「決めたことをやらなきゃ」と思っているのにできないときが、一番惨めな気持ちになるよね(笑)
例えばボクサーの辰吉丈一郎どんなに疲れていても毎朝必ず同じ時間に走るんですよ。
僕もやらなきゃと思った時期もあったんですけど、「これ無理だ!」と思って(笑)
今は好きにやるようにしてます。
ーー「これやらなきゃ」っていうのは撤廃したんですね。そういうのがあると楽しくなくなりますもんね。ハッピーに生きるための秘訣ですね(笑)
やらなきゃいけないことが多いじゃないですか、人生って。
でも音楽をやる上で、やんなきゃって思うと嫌になっちゃうじゃないですか。
「これやんなきゃやばい!」みたいな切迫感があるときはやるんですけど、それ以外は放課後のバンド感覚でやってますね(笑)
情報が多すぎる時代だからこそ、あえて「絞る」
ーーバランスだよね。実際は、そればっかりやっていてもうまくならない。
仕事始めてから忙しい時はそうやってるかもしれないけど、それはモイくんが、練習をめちゃくちゃやっていた時期があるからで。
例えば、社会人で大人になってから楽器を始める人も増えています。
そういう人が「上手くなりたい!」って、仕事の後とか朝とかに練習する。子供の頃の積み上げがないから、今めちゃくちゃ練習しなきゃいけないって自分に発破かけてやるけど、仕事との両立もあるから「やっぱり無理だわ……」とやめてしまう。
そういう状況のときに、じゃあどうやってバランスを取ってやっていくかというのが課題だなと私は思うんだけど、モイくんはどうですか?
僕は、やることを絞ってやっています。
これは、社会人になって楽器を始めて上手くなりたい人もそうだし、プロで24時間音楽に専念できる人もそうだと思う。
動画のレッスンは見ないとか、通勤のときにCDを聴くとか、やることを絞っていろんな情報を入れすぎない。
それが僕には合っていますね。
ーー今って情報ありすぎるもんね。あれも見て、これも見てになっちゃうし、みんな違うこと言うしね(笑)
好きなビデオがあるならそれだけ見るとか、エクササイズもこれをやるとか決めたり。
やらなきゃいけないことを、やり過ぎない。
やらなきゃいけないことが楽しければ楽しいほど良いというか、1本のビデオや1枚のCDと関係を築いていくというか。
「このときこればっかり聴いてたな」という、人生のBGMになるくらいにまで聴く。
そういうときっていろんなことを忘れられるじゃないですか。
そういう環境を自分で作っていく。
いろんな人を見るのは、僕の場合は続かないですね。
ーー嫌になっちゃうよね(笑)
練習は自分の世界に入れないと、僕は続けられないです。
いろんな人のを見ていたら、自分が違う世界に行ってしまう気がするんですよ。
自分の世界が無くなっちゃう。で、続けられなくなっていくので。
自分の世界にいるのが気持ちよくなって、「ああでもない、こうでもない」と自分の中で考えていけることが、練習を続けられる秘訣かなと思います。
だから、バランスですよね。
今日はCDを聴いてやりたい気分だからそればっかりやったり、少ない時間でもそのときに自分が一番いいなと思えることをやったりする、そういうことが良いと思います。
ーーすごく大事なことですね。広げすぎない、絞り込むっていうね。
「学ぶ」ってもっと広げることだと思っていたんですけど、なんか違うのかなって思い始めたりして。
ーーわーって広げる、散らばってるものを少し高いところから俯瞰して全体像を見るのも大事。でも実際には1個ずつしかできないから、あっちも見てこっちも見て…ってやっていると頭クラクラしちゃいますよね。
だから先生がひとりいたら、その先生から全てを吸収する。
ひとりの先生からもらったものをやればいいと思います。
僕もレッスンをやるし、周りにも仕事をしながら音楽をやっている人がいるんですが、「あー無理だ」ってすぐにやめる人は、けっこういろんなものを見ちゃってますね。
でも多分そういう人は意欲が強いんですよ。
学びたい意欲は強いけど、いろんなところから学ぼうとしたら詰め込みすぎて「この歳で始めて、僕は無理だ」と思ってしまう。
そんな人が多い気がしますね。
でも、音楽ってそういうことでもないと思うんですよ。
今の歳で始めたから、今の心境がある。
同じような人たちが他にもいっぱいいて、彼らに一番共感させられる人があなたかもしれない。その人にしかない魅力があるから。
それを、楽器とともに練習していけばいいと思うんです。
そうではなくて、「あの人みたいに弾きたいんだ!」とか、早弾きやゴスペルチョップス(テクニカルなドラムスタイルの一つ)をして、このテクニックを学んで……とか考えている人のほうが多い気がして。
人間性が伴っていないというか。
何のために音楽をしたいのかもすごく重要ですし、そういうのもあると思いますね。
音楽は人生を豊かにしてくれるプレゼントみたいなもの
ーー人間性、人柄、「何のため」という目的、そういうのが大事にしている部分かと思いますが、モイくん自身は一言で言えることってありますか?
一番は「楽しい」ってことですね。
音楽だけで人生がこんなに豊かになる。それはラッキーだなと思いますね。
音楽を通じて成長できるし、音楽がくれるものが大き過ぎて、僕はもう感謝しかないです。なんというか、プレゼントを日々、ずっともらってるって感じですね。
何歳から始めたとかそういう問題ではなくて、音楽がくれるものにフォーカスしている。
だから僕は音楽を続けていると思います。
ーー「俺なんか何歳で始めて……」とか「上手い人はもっといるし……」みたいな気持ちでやってたら楽しくないもんね。
そういうメンタルだと、どうしても楽しくなさそうですもんね。
「有名になるために」と思ってやっているのもすぐ分かります。
音楽じゃなくてもいいんだろうな、俳優でもいいんだろうなって感じる人もいますし。
音楽は感情をシェアできるのが良いですよね。
普段、こういう感情をシェアすることって少ないじゃないですか。
でも音楽やってる同士だと分かり合えることもあって、深い意味で本当にすごいことだなと思います。
「評価だけがミュージシャンのゴールではない」という気づき
ーー音楽に対しての意識が素晴らしいですね。なんだか嬉しい。
こうやって音楽を本当に好きな人と話せて、シェアできるのが嬉しいし、成長もできるし、自分を見つめ直させてくれるし、全部をくれると思います。
結局は楽しくて嬉しい気持ちになりますよね、音楽って。
だからもっと、みんなでシェアできるようにしていきたいです。
「俺は俺は!」って感じよりも、始めるのが遅かった人にも優しくできるミュージシャンというか、本当の意味で共有できるようになっていったらいいですね。
やっぱり威嚇する人もいるじゃないですか、急に吠えてくる人もいるので(笑)
ーーなんかありました?(笑)
仕事ってなると、そりゃいっぱいありますよ!(笑)
スペインに行った当初は18歳で、一番有名と言ってもいいくらいの踊り手のカンパニー*に、ミュージシャンとして入ったんですよ。
*カンパニー:舞踏団、といった意味
フラメンコで一流の人しか入れないところなので、「18歳で日本からきた子がいきなり?」「なんだこいつは?」という感じでした。
そこでお金を稼いで家族を養っている人もたくさんいましたし、そう思う気持ちも分かりますけどね(笑)
陰口も言われました。落ち込む時期も、音楽なんてしたくないと思った時期もあって、最初の頃は厳しかったですね。
良くないことを言ってくる人もいるのは今も同じですが、そんなに気にしていないです。
認めてくれる人も多くなったから苦にならないというか、そんな感じですね。
実はここ3、4ヶ月、あまり練習する気にならなくて。
だから無理に練習もしてないですし、なんというか、違う捉え方をするように頑張ってますね。
ーーその違う捉え方ってどんなものですか?
常に、アスリートみたいな感じで考えていたんです。
練習しなきゃと思っていたし、舞台は次につなげるための舞台みたいに捉えていました。
中学卒業したくらいからそうだったんです。
でも上手くなったとして、自分がどういう風になりたいかを今は、僕の中で考える時期にあると思うんです。
それで、練習もしたいときにしてって感じですね。
コロナの時期ともかぶってますけど。
ーーコロナの時期だからそうなったというわけでもない?
そうですね。昔の僕だったら自粛期間があったら「これで毎日練習できる!外に出ないで済む!」と思っていたと思います(笑)
波みたいなものなので、またガッと練習熱が入るかもしれないです。
「1日でも練習を欠かしたらダメだ!」みたいに。
ーーそうなんだ(笑)でも、「1日でも練習欠かしたらダメだ!」という心境と、「その気になればちゃんとできるから大丈夫だ」という心構えはだいぶ違いますよね。結構大きな変化だったんじゃないですか?
そうなんですよ。
音楽でめちゃくちゃ上手くなって周りに認められることがゴールだと思ってたんです。
だから誰よりも上手くならなきゃいけないと思っていたんですけど、今はそっちに関心が向かなくなってきました。
僕も模索中ではあるんですけど、叩いたり弾いたりするなら自分らしさが重要というか、他人に証明する必要はないなと思っています。
ーーこれは一番大きな課題かもしれないですよね。あの人より優秀だ、テクニカルだとか、周りに認められていい仕事してるとか…そういうことをゴールにすると競争になります。それは幸せではないよね。
そうです、そうです。
スペインに行ったら、世界でツアーさせてもらう機会や、大きな劇場でやらせてもらえる機会もあって。
一流の人たちと音楽をさせてもらう機会がいっぱいありました。
でも、この人たちに認められることがゴールではないんだと。
逆に大きな劇場ですごくいい演奏をしても、もっと小さい10人くらいのところで自分らしい演奏や、周りの人と共有しながらその場でしかできない演奏ができたら、そっちの方がすごく嬉しいしやりがいも感じる。
だからゴールは「音楽を通じて何かをゲットしたい」みたいな外にあるものじゃなくて、音楽を通じてより一層自分らしくなることなんだなって。
自分らしくいられて、他人とも自分らしく接することができるようになって、自分自身がすごく豊かになっていくのがゴールだなって、最近思い始めてきました。
そうしたら、自分のプレイが好きになっていきました。
ーー弾いてる最中の自分が体感する音楽も、録画・録音して後から聞き返したのも、両方?
体感している音楽ですね。
僕の場合、録音を聴くときは第三者的というか、自分の中の完璧主義者を呼び覚ますような感じになります。
ーー音を出しているその瞬間の、自分の体感ってことですね。
音楽でプロになるとか、人に認められてステータスになるとか、そういうことを大なり小なりみんな目指してる。今より良くなりたい、できれば承認されたいと思う中で、承認されること、認められることがゴールじゃないと気づいたんですね。
モイくんは18歳でスペインに行って、普通は一生かけて目指すような一流の人たちがいるところにいきなり入って、周りを見渡して、実際に体験して、この人たち何考えてるんだろうって思った?
結局一緒じゃないかみんなって(笑)
ーー普通は必死こいて目指す世界のはずなんだけど、その場に行ってみると、また違うものを見るというか。
得られるものや体感できるものは、違いますよね。
それはもうすごい人たちが集まってるわけだから、「おお!」ってなります。
たしかにそういう人たちといられるのは良いことで、すごくラッキーだなと思います。
でもそれがゴールかと言われると、違うんじゃないかなと気づきました。
ーーこのときから気づき始めたなっていうのはある?
スペインにいる僕の周りのミュージシャンには、有名じゃなくてもすごく好きだなっていう人もいるし、その逆の人もいる。
自分の立ち位置に不満な人もいればすごくハッピーな人もいるし、この位置でいいんだよって言う人もいる。
すごいミュージシャンとすごくないミュージシャン、みたいなことだと思ってたんですけどその考え方が違うなって。
結局自分のやっていることに対してハッピーかどうかだなと思いました。
すごい人と一緒に演奏することや、その人自身の周りからの評価が違うだけで、自分自身が感じている豊かさとは関係ないな、と。
いろんなところでやらせてもらう中で、最初はすごいびびりまくっていたんですけど、「この人も自分も同じなんだ、みんな同じなんだ」と気づき始めて、そういう考え方になりました。
ーーすごいですね。そういえば最近マイルス・デイヴィスのインタビューの本を読んだんですけど、彼が超ビビってたころの話が載っていたんです。ジャズ界のジャイアントと言われて、帝王じゃないですか。そのマイルスでさえもビビってた、そういうときもあったんだっていうことを知ると、「自分と同じだ!」と思える。
ありがたいですよね、そういう人たちがいると「よかった、俺だけじゃないんだ!」って。
いきなり飛び込んでいくと何をどうして良いかも分からないし、めっちゃ見られてるし、品定めされてるようで怖くて…(笑)
スペイン人に学んだ自己肯定感を上げる考え方
ーー周りに評価される怖さを乗り越えて、今はスペイン基盤で音楽を続けている。でも、日本にいることもできたと思いますが、なぜ18歳のときにスペインに行こうと思ったんですか?
僕は、居心地が良くなってくると怖くなるんですよ。
「居心地が良くなったらダメだ!向こうに行って燃えないと、何かしないと!」という気持ちがそのときはあって。
今ここにいて家族に一緒にいるのも良いですけど、「何かしら挑戦しないと人生無駄にするんじゃないか?」と思うような気がしました。
「でも最初は1年くらいいたらいいや、帰ってこよう」って思っていたんです。
結局、着いて1週間後には気づいたらカンパニーに入っていました(笑)
あたふたして、言われるがままという感じで…スペイン語も少しは話せたんですけど、何か言ってミスするのが怖かったので、24時間中23時間50分くらいは何も喋らずでした。
カンパニーのメンバーからも「あなた喋れないの?」って(笑)友達もいなくて。
今を知っている人からは、別人だね、変わったねと言われます。
ーーそれはなんで変わったの?慣れていっただけ?
慣れもあります。
あと、当時の僕は「自分なんか…」っていう考え方だったんですけど、スペインの人は自己主張が強くて、自己肯定感を学べました。
みんな、自分がキングだと思っているので(笑)
いろんな人と出会って、自信がついていきました。
人を笑わせることもできるようになったから、「ミスしても笑ってくれるからいいじゃん!」と思えて、ちょっとずつ変わっていきました。
ーーお父さんもそんな感じ?自己主張が強いの?
自分では強くないと思ってるみたいですけど、めちゃめちゃ強くて怖いです(笑)
ーーそうなんだ(笑)そんなお父さんがいても、日本にいたときのモイくんは「自分なんて…」っていう感じだったの?
周りには絶対見せなかったですけど、そうですね。
「俺なんてさ…」だらけの「俺なんてさ人間」でした(笑)
今はそうでもないです。
「俺なんてさ…」も「俺はさ!」みたいなナルシストもエゴなので、中間でいようと思ってます。
「俺なんてさ…」っていうのも「周りからすごい見られてるって思ってるじゃん!自意識過剰よ?」って。
だから、バランスをとっていこうと思ってます。
たまにこじらせて、「俺なんてさ…」も発動しますけどね(笑)
ーーおもしろい(笑)このこじらせで悩んでる人は多いですよ。上手くバランスが取れるだけで、だいぶ人生が明るいですよね。
あと、どうせこじらせるなら「俺はさ!」のほうが良いですよね。
そっちのほうがハッピーだし、周りも見て「振り切れてるな、コイツ」ってなる。
ミスしても大丈夫なんだなと思えたら、誰も自分のこと見てないって気づき始めて。
ーー最初は視線をすごく感じるのに、あるとき自分のことなんて誰も気にしてないんだってふと気づく。不思議だよね(笑)
しかも批判する人は何しても批判するし、批判しない人はミスしても温かく受け止めてくれたり、それすら笑ってくれたりする。
「自分がこうあることで周りがこうあってくれる」みたいなことは、違うんじゃないかなと思います。
ーー自分がどうあろうと批判してくる人はしてくるし、どう振る舞おうと、ミスしようとコケようと、受け入れてくれる人は受け入れてくれる。後者と付き合っていけば良いよね。
誰かを傷つけようとしない限りは、自分の責任ですからね。
自分らしくいた結果、好きじゃないと言ってくる人も、好きだと言ってくれる人もいる。
最初は大変ですよね。音楽でも、それはテーマだと思います。
例えばマイルス・デイヴィスは、特に晩年だと、自分がどう見られるか、どう吹くかってあまり気にしてなかったと思うんですよ。それがすごく魅力的ですね。
人の真似をしてしまいがちですし、そういう時期も僕は必要だと思いますが、ただ自分であることができたらいいなと思っています。
ーー大事ですね。
ここまで、モイセさんのプロとして音楽に向き合い続けるためのメンタリティについてお話しいただきました。
#3 へ続く
「自分が心地良くてハッピーなことが答えだと僕は思っています」パーカッショニスト ラファエル・モイセ・エレディアさんロングインタビュー#3
1件のコメントがあります
Comments are closed.